ALPS賠償の現状

ALPS処理水放出と水産事業者への影響

2024年8月24日に、福島第一原子力発電所より放出され、同日、中国などが日本産海産物に対する禁輸措置を講じました。
これにより、ホタテやナマコをはじめとした日本産海産物は行き場を失い、様々な魚種や水産加工品の販売価格が大幅に下落しました。

またALPS処理水放出の影響により輸出業者が深刻な損害を受けただけでなく、国内向けの水産加工製品を製造する事業者も大きな損害を被ることになりました。

東京電力への損害賠償と賠償までの高いハードル

ALPS処理水の放出により水産事業者が被った損害については、東京電力が賠償を行うこととなりました。

東京電力は、「直接請求」と呼ばれる業者との直接交渉による賠償制度を設けており、自社が定めた基準に基づいて賠償に応じています。

しかし、この東京電力の賠償基準から外れた場合、たとえ事業者が大きな損害を被っていても、賠償が拒否されるケースが発生しています。

東京電力への請求の流れ

東京電力への直接請求は、専用窓口での書類の受け取りからスタートします。

まず、東京電力の専用窓口へ電話し、担当者に事業内容を説明したうえで、会社の業務内容に適した請求書を受け取ります。

請求書には輸出向けや国内賠償向けなど複数の種類があり、適切な書類を受領できないと賠償手続きがスムーズに進まない場合があります。

請求書を受け取った後は、決算書、月次試算表、伝票、輸出関連書類などを準備する必要があります。

必要な資料を提出し、東京電力の基準に適合した場合、東京電力から和解案が提示されます。
和解案の内容に納得できれば、和解書にサインし、賠償金が支払われるという流れになります。

「直接請求」の難しさ

直接請求では、東京電力の基準に適合しなければ賠償を受けることができません。

特に輸出賠償においては、輸出関連書類を輸出業者から入手することが難しく、賠償手続きがスムーズに進まない場合があります。

また、ホタテ玉冷などの加工製品の値下がり損害については、ALPS処理水放出と損害の因果関係を証明するために複雑な立証作業が求められることがあります。
そのため、東京電力の基準に適合する資料を揃えることができず、賠償請求が拒否されるケースもあります。

さらに、提示された賠償額が期待していた金額に達せず、売上減少のうち一部のみの賠償にとどまることも少なくありません。

北海道雄武町からの日の出

漁業者の賠償については、都道府県の漁連単位での集団賠償が進められており、比較的スムーズに進む傾向があります。

一方で、水産加工業者や卸売業者は、個別の企業単位で請求を行う必要があるため、賠償請求が停滞したり、東京電力から賠償を拒否されるケースが見られます。

特に、輸出を行わない国内販売(内販)のみの事業者や、ホタテ・ナマコ以外の魚種・製品については、東京電力が極めて厳しい対応をしており、賠償が拒否される事例が多く発生しています。

泣き寝入りするしかないのか?
答えは、「NO!」です。

諦めてしまえば、それこそ「泣き寝入り」になってしまいます。

もし東京電力への直接請求がうまくいかなかった場合でも、「原子力損害賠償紛争解決センター」(通称:ADRセンター)での和解仲介手続を利用することで、賠償を得るチャンスがあります。

「原子力損害賠償紛争解決センター」(通称:ADRセンター)とは?

東京電力は広報では賠償に前向きな姿勢を示していますが、実際には独自の基準を設け、賠償額を抑えようとする慎重な対応を取ることがあります。

この慎重な対応は、原発事故の加害者(東京電力)と被害者(水産業者など)が直接交渉する「直接請求」という仕組み上、避けがたく発生するものです。

支払う側(東京電力)と支払いを受ける側(被害者)では、被害の捉え方に違いが生じることがありますし、東京電力としても支払い額をなるべく抑えたいという動機が働くのは自然なことです。

こうした事態に対応するため、国は福島原発事故の直後から仲介機関を設置し、第三者である仲介委員が「仲介案」を提示することで、東京電力に支払いを促す仕組みを整えました。

この機関が、「原子力損害賠償紛争解決センター」(通称:ADRセンター)です。

ADRセンターの役割と機能

ADRセンターでは、東京電力と事業者側の双方の主張を出し合い、公平かつ中立の立場から「和解仲介案」を提示します。もし「和解仲介案」が採用された場合、原則として東京電力はその案を尊重し、賠償金を支払うこととなります。実際、多くの事例において、東京電力は和解仲介案に従って賠償金を支払っています。

ADRセンターは、福島県や他の地域での案件についても2万件以上の解決実績があります。弁護士や裁判所関係者を中心とした専門家集団により運営されており、被害者の早期救済を目指して迅速に審理が進められています。そのため、日本で最も効果的に機能している訴訟外紛争解決の仕組みとなっています。

直接請求がうまくいかない場合でも、長期間の金銭的負担を伴う裁判を避けつつ解決できる仕組みが整っているため、安心して活用することができます。

ADRセンターの利用について

ADRセンターは、福島や東北での原発事故の賠償に関する案件を扱っているという印象を持たれることがあります。そのため、ALPS処理水に関する問題についてもこのセンターを利用できるのか、疑問に思われるかもしれません。

しかし、ALPS処理水に関する問題もADRセンターで審理を行うことが可能です。

当事務所では、ADRセンターでのホタテ「玉冷」に関する解決事例等、ALPS処理水放出に関する賠償について、解決実績があります。ホタテ以外の魚種や製品についても、ADRセンターへの申立て実績があります。ALPS賠償に関するパイオニアとして水産事業者の皆様のお役に立つことができるよう最良のリーガルサービス提供に努めています。

まずは、お気軽にお問合せください。